雪だるまにまつわる季語と俳句
雪をふたつ丸めて重ね、木の葉や炭で顔をつくる雪だるまは、歳時記では晩冬の季語「雪達磨」として分類されています。子どもの遊びでありながら、大人もつい夢中になってしまうその姿には、厳しい寒さの中に生まれる束の間の喜びが凝縮されています。この記事では、雪だるまにまつわる季語と、出典を確認できる俳句を紹介します。
雪だるまに関する主な季語一覧
雪だるま(雪達磨)は、雪を転がして作った二つの塊を重ね、達磨の形に見立てたものです。中世には宗教的な意味合いを持つ「雪仏」が作られていましたが、江戸時代後期になると子どもの遊びとして広く親しまれるようになり、歌川広重の「江戸名所道戯尽」にもその姿が描かれています。1851年刊行の俳諧歳時記『俳諧歳時記栞草』にはすでに季語として収録されており、長い歴史を持つ季語であることがわかります。
雪だるま関連の季語
| 季語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 雪達磨 | ゆきだるま | 雪をころがして塊を二つ作り、達磨の形に重ねたもの。木の葉や玩具、昔は木炭などで目鼻をつける |
| 雪仏 | ゆきぼとけ | 雪を固めて作った仏像。もとは宗教的な意味合いを持つ造形だった |
| 雪布袋 | ゆきほてい | 雪で作った布袋像。雪達磨の一種とされる |
| 雪獅子 | ゆきじし | 雪で作った獅子の像 |
| 雪細工 | ゆきざいく | 雪を使って像や形を作る冬の遊び全般を指す言葉 |
雪遊びに関連する季語
| 季語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 雪遊 | ゆきあそび | 雪を使った戸外での遊び全般。子季語に「雪まろばし」「雪合戦」「雪投げ」などがある |
| 雪兎 | ゆきうさぎ | 盆に雪の塊をのせ、南天の実や葉で目や耳をつけて兎の形にしたもの |
雪だるまを詠んだ俳句
服部嵐雪の句
松尾芭蕉の門人として知られる服部嵐雪は、「此の下にかくねむるらん雪仏」と詠みました(句集『枯尾花』所収)。雪で作った仏像の下に何かが眠っているかのような、静かで少し不思議な情景です。子どもの遊びの延長にある雪の造形物に、ふと宗教的な静けさを見出しているところが印象的です。
渡辺水巴の句
渡辺水巴は「家々の灯るあはれや雪達磨」と詠みました(句集『水巴句集』所収)。日が暮れて家々に灯がともるころ、庭先にぽつんと残された雪だるまを見つめる視線が「あはれ」という言葉に凝縮されています。作った子どもたちがいなくなった後も雪だるまだけがそこに残っているという時間の経過が、しみじみとした情感を生んでいます。
松本たかしの句
松本たかしは「雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと」と詠みました(句集『石魂』所収)。夜空の星々が雪だるまに向かっておしゃべりしているという、擬人化を通り越した軽やかな幻想が描かれています。「ぺちやくちやと」という擬音の使い方に、たかしらしい柔らかなユーモアが表れています。
二つ玉の雪だるまという日本の様式
雪だるまと聞くと、日本では雪玉を二つ重ねた姿を思い浮かべる人が多いはずです。これは、雪玉を三つ重ねる欧米式の雪だるまとは異なり、達磨の座像に見立てた日本独自の造形からきています。中世に宗教的な意味を持って作られていた雪仏の系譜を引き継ぎながら、江戸時代には庶民の冬の遊びとして定着し、達磨という縁起物の形に置き換わっていったと考えられます。子どもの遊びでありながら、その根底には日本人が雪という自然物に姿かたちを与え、命を吹き込もうとしてきた歴史があるのです。
雪だるまの季語を使った俳句の詠み方
作る過程を切り取る
雪だるまは完成形だけでなく、雪を転がして大きくしていく過程そのものにも動きと物語があります。転がす手の冷たさ、雪玉が重くなっていく感触など、完成前の一場面を詠むことで、句に臨場感が生まれます。
消えていく運命を意識する
雪だるまはやがて溶けてなくなる、儚い存在です。作られた直後の喜びだけでなく、いずれ姿を消していく運命を意識して詠むことで、単なる冬の遊びの描写を超えた奥行きが生まれます。
作った人の不在を描く
渡辺水巴の句のように、雪だるまを作った子どもたちがいなくなった後の姿を描くと、そこに時間の経過や人の気配の余韻を込めることができます。雪だるまだけを主役にせず、作り手との関係性を句に滲ませる方法です。
まとめ
雪だるまは晩冬を代表する季語であり、宗教的な雪仏の系譜を持ちながら、江戸時代以降は子どもの遊びとして親しまれてきました。嵐雪は静かな不思議さを、水巴は残された雪だるまへの哀感を、たかしは星とのおしゃべりという幻想を、それぞれの時代の感性で描いています。雪が積もったら、自分だけの雪だるまの句を詠んでみてはいかがでしょうか。