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あらざらむこの世のほかの思ひ出に―和泉式部が詠んだ恋の歌

百人一首 恋の歌 和歌 和泉式部
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百人一首56番として知られる和泉式部の「あらざらむ」の歌は、死を予感しながら、あの世への思い出にもう一度だけ愛する人に逢いたいと訴える、百人一首の中でも屈指の激情的な恋の歌です。この記事では、原文・現代語訳から作者・和泉式部の生涯、歌に込められた技法、競技かるたでの決まり字まで詳しく解説します。

原文と現代語訳

原文

あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな

読み方

あらざらん このよのほかの おもいでに いまひとたびの あうこともがな

歴史的仮名遣いでは「あらざらむ」「逢ふこともがな」と表記しますが、実際に声に出すと「あらざらん」「あうこともがな」に近い音になります。

現代語訳

(私はもうすぐこの世に生きてはいないでしょう。)あの世へ持っていく思い出として、もう一度だけ、あなたにお逢いしたいのです。

歌の背景と詠まれた状況

詠まれた時代

平安時代中期、10世紀末から11世紀初頭に詠まれたと考えられています。詞書によれば、体調がすぐれず病に伏していた頃、ある人のもとに贈った歌とされ、相手は冷泉天皇の皇子・敦道親王(あつみちしんのう)と伝わります。二人の情熱的な恋は「和泉式部日記」にも描かれています。

歌が収められた勅撰和歌集

『後拾遺和歌集』恋三・763番に収められています。

作者について

生涯と人物像

和泉式部(いずみしきぶ、生没年不詳、978年頃生まれか)は平安中期を代表する女流歌人です。越前守大江雅致の娘で、和泉守橘道貞と結婚したことから「和泉式部」と呼ばれました。道貞との間に生まれた娘が、百人一首60番の歌人・小式部内侍です。冷泉天皇の皇子・為尊親王と恋愛関係にあり、親王の死後はその弟・敦道親王と結ばれました。この奔放な恋愛遍歴は当時から評判となり、紫式部は日記の中で和泉式部を「けしからぬ方こそあれ」(感心しない面もある)としつつ「歌はいとをかしきこと」(歌の才能は素晴らしい)と評しています。のちに藤原保昌と再婚しました。中古三十六歌仙の一人で、自身の恋愛体験を綴った『和泉式部日記』の作者としても知られます。

他の代表歌

和泉式部は『後拾遺和歌集』をはじめ多くの勅撰和歌集に歌が入集しており、情熱的で率直な恋の歌を数多く残しました。『和泉式部日記』には敦道親王との贈答歌が多数収められ、この「あらざらむ」の歌もそうした激しい恋の延長線上にある一首として位置づけられます。

歌の技法と解釈

修辞技法

「あらざらむ」は「あり(生きている)」の未然形「あら」に打消の助動詞「ず」の未然形「ざら」、推量の助動詞「む」が続いた形で、「(私は)もう生きてはいないだろう」という意味になります。「この世のほかの思ひ出に」は「あの世へ持っていく思い出として」の意で、二句切れの歌です。掛詞のような技巧的な仕掛けはほとんど用いられておらず、むしろ技巧を排した率直な言葉で切迫した心情を訴える点が、この歌の最大の特徴といえます。

多様な解釈

「この世のほかの思ひ出」は一般に「死後に持っていく思い出」と解釈されますが、和泉式部の病がどれほど深刻であったかについては諸説あり、実際に死を意識していたというより、恋の激しさを誇張して詠んだとする見方もあります。

歌の構造

上の句「あらざらむ この世のほかの 思ひ出に」で自らの死を仮定し、下の句「今ひとたびの 逢ふこともがな」で切実な願いを述べる構成です。「もがな」は願望を表す終助詞で、歌全体を強い希求のトーンで締めくくっています。

百人一首かるたでの扱い

決まり字

競技かるたにおける決まり字は「あらざ」の3文字です。「あ」で始まる歌は百人一首の中で16首と最も多いグループですが、その中でも69番「嵐吹く」とは「あら」まで音が一致するため、3文字目の「ざ」(あらざらむ)と「し」(あらしふく)で最終的に区別されます。

取り方のコツ

「あら」まで聞こえた時点で56番と69番の2択に絞り込まれるので、3文字目の「ざ」か「し」かを聞き分けるのがポイントです。「あ」始まりの歌が多いため、まず「あ」グループ全体の下の句を整理して覚えておくと素早い反応につながります。

関連する歌

和泉式部の「あらざらむ」は、恋の切なさと死をも意識した情念を詠む点で、百人一首の恋の歌の中でも特に情熱的な一首として知られます。同じく待つ恋・叶わぬ恋を詠んだ歌々と読み比べることで、平安女流歌人たちが恋をどのように歌に昇華させたかが見えてきます。

まとめ

和泉式部の「あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな」は、死を意識しながらも最後にもう一度だけ逢いたいと訴える、技巧に頼らない率直さゆえに千年の時を超えて胸を打つ一首です。恋多き歌人として知られた和泉式部の生涯と重ね合わせることで、この歌に込められた切実な思いがより深く理解できるでしょう。

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